SPMでの「1対多」の解析

臨床では、1人の症例で健常者と比較して容積低下部位を求めたいことがあります。
SPMでどのようにするかというと、シンプルです。

  • DesignはTwo sample t-testを用います
  • Group 1に1例のみ選びます
  • Group 2に健常者の複数の画像を指定します
  • IndependenceはYesを選びます
  • (ここがキモ)VarianceはEqualを選びます。もし、Unequalにするとエラーとなります。1例では分散を計算することができないからです。

そうすると、Design matrixを作るための設定画面は下図のようになるはずです。

SingleCase

これを普通にEstimateして、Contrast managerで症例の容積が低下している領域を求めたかったら、[-1 1]とすれば大丈夫です。

Twitterで疑問を投げかけてくださった@silverjet_jpさん、ありがとうございました。

MRIConvertやdcm2niiを用いたDICOM→NIFTI変換の方法

画像解析のためには、DICOM画像をNIFTI画像に変換する必要があります。
主に使われるソフトウェアとして、MRI Convertとdcm2niiがあります。
開発者からスクリーンショットを使ってよいという許可をいただきましたので、
MRI Convertおよびdcm2niiの使用方法をPDFで公開します。

MRIConvertの使用方法(PDF)
dcm2niiの使用方法(PDF)

Flexible factorial designを用いたVBMの縦断解析

様々な方々から「2群の縦断解析をしたいんだけれども、どうすればいいの?」と質問されてきて、その都度、きちんとした答えをできずにいました。
ちょうど、今日、ある方から質問をうけたので、これを機にまとめてみることにします。

一言で言うならば「Flexible factorial modelを使うといいよ」となります。しかし、これはそんな簡単ではありません。
以下にその方法をまとめます。

根拠となっている資料として、”Contrast weights in flexible factorial design with multiple groups of subjects“を挙げます。これは、SPMのML上で流れたドキュメントで、Flexible factorial designにおけるコントラストを様々な条件から検討しています。このドキュメントの他にも、SPM-ML上の議論も参考にしています。できるだけ正確を期していますが、間違っている可能性もゼロではありませんので、もし間違いを見つけた方がいらっしゃったらぜひご指摘ください。

例として、以下のような状況を想定します。上述のContrast weights in flexible factorial design with multiple groups of subjectsでとりあげられている状況と同じ状況です。

  • 被験者は11人。6人(Subject1(S1)-S6)がグループ1、5人(S7-S11)がグループ2
  • それぞれ3回MRIを撮像。従って、11×3=33の画像があることになる

以下、SPM12bのスクリーンショットを用いながら説明します。基本的にSPM8でも同じです。
SPMのメニューから”Basic models”をクリックします。

  1. Design matrixの作成
    • Flexible factorialの指定とFactorの設定
      flex_fact_01

      まずは、DesignでFlexible factorialを指定します。その後、Factorを指定します。今、指定すべきFactorは3つです。各々に対してindependenceとvarianceを指定します。

      • subject
      • これは必ず入れないといけないとのことです。independenceはyes, varianceはequalとなります。

      • group
      • 次はgroupです。これはindependenceはyes, varianceはunequalとなります。

      • time
      • 縦断解析ですので、timeが入ります。これはindependenceはno, varianceはequalとなります。

        すぐに見直すことができるように表にしておきます。

        factor independence variance
        subject yes equal
        group yes unequal
        time no equal
    • subjectの指定
    • flex_fact_02

      Specify Subjects or all Scans & Factorsで、”Subjects”を選択します(all Scans & Factorsもいけそうなのですが、Design matrixがやや異なるので、ここは無難にSubjectsとします)。そして、Subjectsに、Subject 1のtime 1, 2, 3の3つのファイルを指定します。

    • Conditionsの指定
    • flex_fact_03

      Conditionは行列で指定します。行は画像の順番です。列は指定したFactorの順番です。Factor1のSubjectは今、ひとつひとつ指定することで考慮されていますので、groupとtimeを指定します。被験者1-6(S1-S6)はグループ1, S7-S11はグループ2ですので、S1-S6のconditionは次のようになります。

      1 1
      1 2
      1 3

      同様に、S7-S11のconditionは次のようになります。

      2 1
      2 2
      2 3

    • Main effectsとInteractionの指定
    • flex_fact_04

      その後、Main effects(主効果)とInteraction(交互作用)の指定をします。

      subject, group, timeの主効果を見るために、Main effectとしてFactor 1, 2, 3をそれぞれ指定します。
      さらに、group x timeの交互作用もみたいので、Interactionとして、2 3とします。(Factor2がgroup, Factor 3がtimeだからです)

      それ以降の設定(mask, global normalization)は通常のVBMと同様です。

      この設定を適当な名前(flex_fact_design_matrix)で保存し、実行して、次のようなDesign matrixが得られたらOKです。

      design_matrix

      ここで気を付けなくてはいけないのは、Subjectは最初に指定しても、Design matrix上では最後に来ることです。
      最初の2列(赤)がgroupの主効果, 次の3列(黄緑)がtimeの主効果, 次の6列(青)がgroup x timeの交互作用, 最後の11列(紫)がsubjectの主効果となっています。

      ここまでできたらEstimateしてください。

  2. Flexible factorial designのコントラスト
  3. Design matrixの設定もややこしいのですが、コントラストはもっとややこしいことになっています。ここは上述の”Contrast weights in flexible factorial design with multiple groups of subjects”に従って説明します。

    今、Design matrixの各列の要素を列挙すると以下のようになっています。

    G1 G2 T1 T2 T3 G1T1 G1T2 G1T3 G2T1 G2T2 G2T3 S1 S2 S6 S7 S8 S11

    ここでGはgroup, Tはtime, Sはsubjectを意味します。
    これを見ると、Interactionの中にgroupとtimeの要素が入っていることがわかります。コントラスト作成の際には、ここのところに気をつける必要があります。nの数によってコントラストに重みづけをしなければならないからです。

    • groupの主効果
    • G1 G2 T1 T2 T3 G1T1 G1T2 G1T3 G2T1 G2T2 G2T3 S1 S2 S6 S7 S8 S11
      1 -1 0 0 0 1/3 1/3 1/3 -1/3 -1/3 -1/3 1/6 1/6 1/6 -1/5 -1/5 -1/5

      ここでG1T1, G1T2, G1T3は皆等分なので、シンプルに3で割っただけです。G2T1なども同様に-1/3となります。S1-S6, S7-S11は人数にあわせて1/6と-1/5となっています。

      ただ、これをひたすらSPMに打つのは非常に苦痛ですね。ここで、Matlabの便利な機能を使います。
      Matlabでは、1がn個続く時は、 ones(1,n) とします。
      これは応用が効いて、もし、1/3がn個続く時は、 ones(1,n)/3 とします。
      -1/4がn個続く時は、-ones(1,n)/4 となります。
      そして、ゼロがn個続くときは zeros(1,n) となります。

      従って、今の場合は、以下のように書くことができます。私はこれをSPMのcontrast managerに入力しています。

      1 -1 zeros(1,3) ones(1,3)/3 -ones(1,3)/3 ones(1,6)/6 -ones(1,5)/5

      すると、下図に示すようなコントラストになるはずです。

      main_fx_group_contrast

    • timeの主効果
    • G1 G2 T1 T2 T3 G1T1 G1T2 G1T3 G2T1 G2T2 G2T3 S1 S2 S6 S7 S8 S11
      0 0 1 0 -1 6/11 0 -6/11 5/11 0 -5/11 0 0 0 0 0 0

      timeの主効果は、経時的にvolumeが小さくなると仮定して、[1 0 -1]と考えています。G1T1, G1T2, G1T3に関しては、今はT1がG1とG2で不均等になっていますので、その比率を考慮して、G1T1, G1T2, G1T3に関しては、6/11×[1 0 -1], G2T1, G2T2, G2T3に関しては、5/11×[1 0 -1]となっています。そして、subjectのfactorに関してはこの中に3つの時系列をすべて包含していますので、コントラストに影響しませんので、すべて0となります。

      これも先ほどと同様にonesとzerosを上手に使って書いてみましょう。以下をcontrast managerに入力します。

      zeros(1,2) [1 0 -1] 6/11*[1 0 -1] 5/11*[1 0 -1] zeors(1,11)

      すると、コントラストは下図のようになるはずです。

      main_fx_time_contrast

    • group x timeの交互作用
    • G1 G2 T1 T2 T3 G1T1 G1T2 G1T3 G2T1 G2T2 G2T3 S1 S2 S6 S7 S8 S11
      0 0 0 0 0 1 0 -1 -1 0 1 0 0 0 0 0 0

      交互作用で用いられる項目は、GxTxのみです。これも次のように書きなおすことができます。

      zeros(1,2) zeros(1,3) [1 0 -1] [-1 0 1] zeros(1,11)

      コントラストは下図のようになります。

      interaction_contrast

    これでひと通り検定することができるはずです。
    いざまとめてみると、結構すっきりした感じになりました。
    縦断データをお持ちの方は、是非トライしてみてください。VBMだけでなく、脳血流SPECTなどにも応用可能です。

Linuxでファイル名の前後に文字を追加したい時の簡単な方法

ある方に、

「ファイル名の最初に一括でzとつけたいのだけれども、どうしたらよいだろうか?」

と質問されました。

たとえば、

001.jpg 002.jpg 003.jpg 004.jpg

をすべて

z001.jpg z002.jpg z003.jpg z004.jpg

としたいというような時です。

ここで、Linuxではrenameというコマンドを使います。

renameは以下の書式を知っていれば応用が効きます。

rename 's/置換前文字列/置換後文字列/' ファイル名

この、’s/before/after/’はsedでの置換と同じ書式です。sはsubstituteの略です。

でも、今は置換ではなく、文字列を追加したいわけです。

こういう時、Linuxはたいしたもんだなと思うのですが、ファイルの頭は^という特殊文字で表現されます。
そして、ファイルの最後は$で表現されます。(正規表現ですね)

なので、今、ファイル名にzを追加したい時は、

「^をzに置換」してあげると考えるわけです。

したがって、以下のようになります。

rename 's/^/z/' 00*.jpg

もし、ファイル名の最後に.oldをつけたかったら以下のようになります。

rename 's/$/.old/' 00*.jpg

^と$についての知識がちょっとあるだけで、ずいぶん楽になりますね。

iTunes Matchがフリーズする(終わらない、止まる)時の対処法:アップロードのスピードを絞ってみる

iTunes Matchが日本でもはじまりました。
しかし、多くの方がうまくいかずに苦しんでいます。私もその一人。

ネットには様々な情報が流れていますが、ステップ1、2で今まで一番うまくいったのは、

  • 一度「停止」して、iTunesのメニューの「Store」→「iTunes Matchをアップデートする」
  • サインアウトして、再度サインして再トライ

の2つでした。しかし、それでもステップ3で途中で止まってしまって先に行けないという現象に遭遇していました。

そこで、なぜ、上記の2つが有効なのか考えました。

基本的に、ネットワーク関連でうまくいかないときに一度止めて再度トライするとうまくいくことがあるというのは、基本的に情報のアップロードがうまくいっておらず、一度停止してリトライすることで新たにサーバーへの接続がなされるからということが多いからと思います(確証がないので断定しません)。サービス開始直後でアクセスが多いこともあると思いますが、おそらく、データのアップロードで情報がオーバーフローしているのではないか?と思いました。

そこで、帯域制限をしたらうまくいったという報告をしている人がいないかと思ったら、いらっしゃいました。

をぢの日記−意外な方法で、Music Matchが終わらない件が解決した

そこに以下のような記載があります。

iTunes Matchがアップロード帯域を使い果たしてしまい、そのためにiTunes自体がiTunesサーバにアクセスできず、 自己破綻してハングしているという説らしい。Apple Support Communityにも同様の投稿があった

私の推測は大きく間違っていないようです。
そこで、早速、私が音楽の管理のために使っているMac Book Proに、(一度、iTunes Matchを停止してから)上記サイトでも紹介されているSpeedLimitを導入してみました。

ちなみに、ダウンロードして普通にダブルクリックすると「セキュリティ上あけられません」などと言われると思いますので、
Finderを開き、ダウンロードフォルダに行ってから、右クリックで「開く」とするとインストールできます。

インストール後、環境設定に入りますので、立ち上げます。
そこで、Port80と443を選び、Speedを768k(DSL)を選び、”Slow Down”としました。私が現在使っている環境はネットワークがそこまで速くなかったからです。

speedlimiter01

speedlimiter02

この設定をして、再度iTunes Matchを走らせたところ、一度だけネットワークエラーで止まりましたが、その1回だけで結果的には丸2日間かけて3500曲のアップロードが完了しました。それまではせいぜい1時間以内で止まっていたことを考えると、帯域制限がいい方向に動いてくれているということになります。また、私はステップ3に行ってからこの方法を試したのでステップ1および2に及ぼす影響はよくわかりませんが、おそらくよい方向に働くのではないかと思います。

ということで、iTunes Matchで苦しんでいる方は、ネットワークの帯域を少し絞ってみるのがよいかもしれません。

すぐできるVBM: 精神・神経疾患の脳画像解析 SPM12対応

VBM_textbook

ついにできました!VBMの教科書です。
薄い本(150ページ弱です)ですが、VBMについての基礎知識がぎっちり詰まっています。

この本のいいところは、以下のようなところです。

  • 日本初の形態MRIの解析法であるVoxel-based morphometry (VBM)の方法を丁寧に紹介した本です。VBMだけを取り上げた本は世界にもないので、ある意味世界初です。
  • これから正式版が公開されるSPM12をもとに解説しています。SPMは4年ごとにアップデートされますが、ここ最近は正式版の公開は遅れています。2014年なのにまだSPM12の正式版がリリースされていないわけですから。したがって、今購入していただければ、最低でも5年間は使えます。SPMの使い方の基本も説明していますので、これからSPMを使ってみたいという方にもオススメです。
  • サンプルデータがついています。自分のデータセットがなくても、灰白質の抽出(Segmentation)から統計解析まで実際に行なってみることができます。
  • スクリーンショットが豊富です。すべて私が自分でスクリーンショットをとっているので、大きな間違いはないはずです。
  • 動作検証をWindowsとMacで行なっています(Linuxでも行なっています)。なので、WindowsユーザーでもMacユーザーでもきちんとできます。
  • VBMを応用した認知症診断補助ソフトウェアVSRADについても開発者の松田先生自らの解説が書かれています。

構成は以下の通りになっています。

第1章 はじめに
第2章 画像解析の準備
2.1 画像解析に必要なコンピュータのスペック
2.2 画像のファイル形式
2.3  画像解析の一連の流れ
2.4  SPMのインストール
2.5  サンプルデータ

第3章 SPMの動作の基本
3.1  SPMのウィンドウ構成
3.2  作業ディレクトリの設定
3.3  画像の表示
3.4  AC-PC位置合わせ
3.5  MATLABスクリプトを用いた半自動AC-PC補正プログラム

第4章 VBMの概要と前処理
4.1  VBMとは
4.2  分割化
4.3  DARTEL
4.4  バッチ(Batch)処理

第5章 統計モデルと結果表示
5.1  事前準備
5.2  群間比較(two-sample t-test)
5.3  相関解析
5.4  要因の分散分析

第6章 VBMの臨床への応用
6.1  VSRAD®
6.2  J-ADNI
6.3  VSRAD®の臨床応用例

ちなみに、総ページのだいたい半分が第5章に割かれています。VBMの前処理についての情報はそれなりにあるのですが、統計処理のところについての説明は非常に少ないので、統計処理について重点を置いています。

値段が5000円+消費税8%で5400円となっていますが、ここまで情報が詰め込まれているVBMの解説書はありませんので、形態MRI解析を志していて英語の文献を読むだけの気力がない方にはお手頃だと思います。(実は英語でもVBMの統計の部分の情報は系統的なものは少ないです…)

Amazonでも購入いただけます。リンクは下記。